A:鋼鱗の硬竜 マラク
硬竜「マラク」は、デュランデル家の仇敵よ。なぜなら、過去に10名を超える同家の騎兵を、戦神「ハルオーネ」が待つ天界に送っているから……。
対竜カノン砲の直撃を受けても、びくともしない頑強な肉体が、最大の特徴よ。討伐したいのであれば、準備は入念にすることね。
~グランドカンパニーの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
また人間が僕を殺しに来た。
いつも僕が自分の身を護る事で死んでしまった人間たちの仇討だと喚かれるが、きっと今回もそうなんだろう。でもドラゴンだという事だけで突然襲ってきたのは彼らで、僕はそれから身を護っただけ。僕は彼らを襲ってなどいない。そもそも人間たちの体は脆すぎるんだ。
僕は生まれつき甲殻が頑丈だった。
卵から孵ったばっかりの頃、巣で寝ていた時に誤って寝返りを打った母の下敷きになった事がある。ドラゴン族の間ではよくある不慮の事故なんだけど、大抵は母竜の重さに耐えきれず子供は圧死してしまう。僕の母は特に寝相が悪く、寝起きも悪い。母は僕を下敷きにしたまま朝まで眠った。目覚めた母はもう僕が生きてはいないと思って自分を責めて泣き出してしまったらしいが僕は無傷で、下敷きにされたことにすら気付かずに寝ていた。
また僕が幼竜の頃、大きな崖崩れに巻き込まれた。僕は大きな岩や土砂が落ちてくる中、状況が飲み込めないまま立ち尽くした。巨大な岩石や勢いよく押し流れてくる尖った倒木が勢いよく体にぶつかってきたので、僕は首を竦め丸くなっていた。翌日、土砂の中から這い出した僕は無傷だった。
僕は生まれつき体が丈夫だった。君たちの体が脆すぎるんだ。
最初に襲ってきた騎士は大声で名乗りを上げた後襲い掛かってきたけど、味方が僕に向かって投石器でぶつけてきた岩の破片に頭を潰されて死んだ。
次は複数の騎士に襲われた。彼らは持っていた槍で僕に攻撃してきたんだけど、僕が身体に刺さった槍を抜こうとして体を振ったら槍に引っ付いていた彼らは飛ばされて、壁にぶつかったり、谷に落ちたり、地面に叩きつけられたりして動かなくなった。でも僕が攻撃したんじゃない。
またある時は騎士がしつこくて、怖くて逃げ出そうとした僕を追いかけてきたんだけど、たまたま僕の足が蹴飛ばした岩に当たって死んだ。
更に別の時は、足を攻撃されてバランスを崩して転んだ僕の下敷きになって死んでしまったり、人が作った竜を殺す武器、対竜カノン砲といったかな?それに撃たれたんだけど僕に当たった弾が弾けて、破片に当たって死んだでしまった人間もいる。
全部僕が攻撃した訳じゃない。僕が殺したんじゃない。僕は戦う事が嫌いなんだ。戦わないための硬い体なんだ。もう僕に近寄らないで欲しいだけなんだ。
小さい明りが見える。また人間が近づいてきている。
「来ないでくれ!」
僕は叫んだ。
だが人間の言葉は理解できるけど、発音する器官をもたない僕は人間の言葉を話すことはできない。だから僕の叫びはいつも人間には威嚇のように見えるみたいだ。
最後の角を曲がって明りを手にした人間が姿を現す。今回は二人いる。
知ってる。一人は良く僕を殺しに来る人間、もう一人は人間たちがミコッテと呼ぶ耳が頭の上についたタイプの人間だ。
「来ないでくれ‥」
無駄だと知っていたけど僕は再び弱々しい声で言った。
「デュランデル家の仇敵って聞いて来たけど…」
ミコッテの方が武器も抜かず明りを持ち上げて近づいて来た。
「あなた…怯えてるの?」
そう言うと縮こまる僕の顔に近づき、鼻先に触れた。僕の硬すぎる甲殻はその手の柔らかさや温かさは伝わらない。
でも、なんて小さくて、弱々しい手なんだろう。
今回の二人は今までの人達とは違うようだ…。